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真・その名はマコト!!(前菜)

右腕に限界まで力を入れ、額に汗を掻き、唸る青年が一人。
「ぬぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
 尚も唸る青年。その様子を遠い目で見つめる男と女。
「くぉおぉおおおおおおおおおおおお!!!」
青年は額に青筋を立てる程に唸る。
「プ、プラクテ・ビギナルぅぅぅぅうううううううううう!!!!」
 少年は詠唱する。右腕を天高く翳し、なんとも気合の入った詠唱を続ける。
「アールぅうぅぅぅううう! デスカットぉおおおおおおおおおおお!」
 少年の叫びは遠くまで木霊するが、その気合の入った詠唱とは裏腹に右手には何の変化も見られなく、風だけが寂しく吹くのだった。
「っは! ハァハァ・・・・やべぇ、叫び過ぎた・・・・ハァハァ」
 少年は肩で息をして、倒れこんで空を見上げる。
「随分と気合の入った詠唱ね・・・・」
 様子を見ていた女性が青年に近づいてそう言う。
「ハァハァ・・・・うるせー。笑いたきゃ笑えチクショー!」
「うーむ。自分の魔力を自在に操れるようになれば基本魔法も出来ると思ったのだが、私の検討違いだったか・・・・」
 少し離れた所で男は腕を組んで顔を顰めた。
「まぁ、でも一応、形にはなったから結果オーライよ♪」
「うむ、そうだな。」
 青年を置いて勝手に二人で納得する男と女。
「いや、魔法使える様にしてくれるんだろ!? お袋! 親父!」
「んにゃ、私達に出来るのはここまでなのよマーちゃん。」
「後は自分で模索しながら強くなれぃ!」
「じゃ、お父さんお母さんは仕事があるからこれにて失礼~♪」
「マコト、がんばれよ・・・・」
 二人はそう言い残し、瞬時に姿を消した。
「少しは俺の話聞いてくれ。・・・・てか、此処ドコだよ!!」
 山の中だって事はわかるんだけど・・・・。
「ドコの山だよ!! 帰る前に俺を寮まで送れぇえええええええええ!!」
 どこぞの山に取り残される彼は徳川 マコト。
 両親は関東魔法協会で働くバリバリの魔法使いで、その名は魔法界にも轟く。
その一子であるマコトも当然魔法使いなのだが、使える魔法は魔法の射手(サギタ・マギカ)光の一矢(ウナ・ルークス)と操影術のみという少々歪な魔法使いである。その他の魔法は一切使えない、障壁も作り出せないのである。
「ぬぅおおおおおお!! だから、此処ドコだよぉおおおおおおおお!!」


 朝、麻帆良学園。
 麻帆良学園の生徒達が一斉に登校するこの時間。
「ふぁ~あ」
 欠伸を吐きながら倦怠感丸出しで登校するマコト。
 あ~一応今日から俺も中3か~。出席日数及び期末の結果はギリギリだったが、なんとか三年になれたからよしとしよう。
「すいませーん。超包子肉まん一つ~」
「まいどー♪ 120円あるネ♪」
 モフホフ・・・・そういえばずっと修行ばっかだったな。まぁ、それも仕方ない事なんだけど・・・・でもよ・・・・。
 マコトは視線を横にやる。そこには朝からイチャイチャしている男女が居た。
 制服を見る限り、同じ中等部のカップルのようだ。
 “朝っぱらからイチャついてんじゃねーよ。殺されたくなかったら失せろ”
 悔しかったので本気で殺気を送ってみた。
「「・・・・ご、ごめんなさいぃいいいいいいい!!」」
 マコトの殺気で脱兎の如く去っていくカップル。
「修行も大事だけど、若いんだから色恋の一つや二つ・・・・」
それを見つめ、そう呟くマコトの目からは一筋の雫が零れていた。
 こんな気分が沈んだ時はやはり桜通りの桜を見るに限る。
 そんな訳でやってきました桜通り。
「うむ、やはり良い。この時期の桜通りは最強だな」
 満開の桜が通りに沿って並び、時より吹く風に乗って花弁が優雅に舞い上がる。それはそれはなんとも美麗な風景だ。
「ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ。by紀友則」
 実に良い句だ・・・・。
「なんて博識ぶってみたけどコレしか知らないだけなのさ・・・・ん?」
 登校時間の誰も居ない桜通りで独り言を言う、ちょっと怖いマコトの目に桜の木に寄りかかり、平和そうに寝ている少女が映る。
「なんだ、春の陽気にあてられて眠ってしまったのか・・・・」
 短めの髪の両側に小さなツインテールを作って、どこか快活そうな雰囲気を感じさせる可愛い少女だった。
「それにしても・・・・いつから此処で寝てるんだ?」
 体操服を着て、洗面器、ボディソープ、シャンプー、リンス、洗顔用ソープ? そんな物まであるのか、女は大変だな。
 どう見ても風呂帰り、という事は昨日夜からもしくは夕方から此処で寝てるのか!?
「おーい。いい加減起きなよ、もう授業はじまるぜ・・・・!?」
 マコトは小女の頬を軽く叩こうと頬に触れた瞬間、違和感を覚える。
 コレは・・・・本当に極々僅かだが魔力を感じる。
 この娘から出ているものでは無い。それはこの娘を見ればわかる。
「・・・・」
 最近この辺で噂の吸血鬼でも出たか? まさかな・・・・。
 まぁ、悩んでも仕方ない。とりあえず女子中等部の職員室に電話して。
「あ~もしもし・・・・」
 さすがに男子が体操着の女の子背負って向こうの保健室まで運んだとなるといろいろと問題だからな。
 マコトは体操着娘を引き渡し、自分の教室3-Bへとやってきた。
「おい、知ってるか? 今日また桜通りで犠牲者が出たらしいぜ?」
「マジかよ、やっぱ居るんじゃねーか吸血鬼!」
 同級生の生徒達が噂話で盛上がっている中、片肘をついて外見るマコト。
 吸血鬼ねぇ~。吸血鬼と言えば魔法界で600万ドルの賞金首エヴァンジェリンA、Kマクダウェル。吸血鬼の真祖であり、人形使い(ドールマスター)であり、闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)であり、不死の魔法使い(マガ・ノスフエラトウ)である。最強と言う言葉が感じとれる存在。
 もし、居るんなら一度戦ってみたいし、是非ご教授願いたいものだ。
「マコト~吸血鬼だよ吸血鬼!」
「はぁ~。わかったわかった。怖い怖い。」
 だいたいこの麻帆良には結界が張られてて、吸血鬼みたいな強力な魔力を保有した奴は入ってこれないんだよ。でもお袋の話では入れる方法もあるらしいが・・・・。
 と、言ってもコイツにはわからないか。
 “ピンポンパンポーン♪ 三年B組徳川 マコト君、職員室にお客様が来られています。至急職員室まで来なさい”
「なに? 親でも来てんの?」
「・・・・いや、それは無いはず」
 一体誰だ? と思いつつ職員室に入るとブロンドの長い髪を揺らして高等部の制服を身に着けどこか凛とした雰囲気を感じさせるお姉さんがそこに居た。
「あ、マコトさん。」
 高音・D・グッドマンさんです。略して高姉ェ。って、絶対に本人の前では言えないけどな。
「これは高音先輩。ご無沙汰してます」
 とりあえず一礼。
「今日はコレを貴方に届け参りました」
 そう言って高姉ェが出したのは学園風紀員と行書体で書かれた腕章と銀の笛だった。笛と言っても首から下げる玩具の笛だ。
「ついに俺に回ってきたか・・・・」
 これは中等部の魔法生徒達から任せられる仕事の一環で、要は勝手に校内で魔法を使おうとするふとどきな魔法生徒を取り締まる為の風紀員である。
 事の発端はどっかのバカ魔法生徒が魔法を使ってるところを見つかり、大変な騒ぎになったとかで、それ以来魔法生徒は魔法生徒同士で監視するべきだと言った人が居たらしい。そして今に至る。
「最近、女子中等部の方が騒がしいから、そこを重点的に警戒をお願いします」
「了解でーす。ところでこの笛、先輩何回吹きました?」
「心配しなくても大丈夫です。綺麗に洗い流したあと、エタノールに一晩つけて此処に持ってきましたから」
「そんな・・・・何もそこまでしなくても・・・・」
「では、がんばってください。」
 高姉ェは素っ気無くそう言うと一礼して帰って行った。
 愛が感じられない、愛が感じられないよ。
「あーあ。残念だったぁ~マコト。テッキリお前に女でも出来たのかと先生期待してたのに」
 嘘だ!! 目が笑ってんじゃねーか!
「さぁ、落ち込んでないで先生と一緒に教室行って、楽しい数学の授業をしようじゃないか♪」
 これから始まるのはめくるめく数字の世界のお勉強。
 そして今日の授業を終え、本意ではないが腕章をつけて笛を首から下げるのはさすがに恥ずかしいので、手に持つ事に。
 とりあえず校舎の上に乗って、感覚を研ぎ澄ます。
 まず目を瞑って真っ暗になったところに麻帆良の地図を想像する。後は自分を地図の何処かに置いて影を広げていく。
 影が広がって地図を支配したなら完成。
 もうこの時点で魔法使い、魔物なら何処に居ようが妙な術で隠密性を上げようと魔力を見つけてみせる!
「って、早速かよ!!」
 さっそく魔法使ってるバカがいる。場所は桜通り・・・・二人だな。
 随分と魔力量の差がある二人だな。虐めか?
 マコトはすぐに身体に魔力流し、身体能力を上げる。
 魔法を使って虐めとは、どうせ小等部だろ・・・・。まったく親の魔法使いにはしっかり教育してもらいたいものだぜ。
マコトは桜通りに降り立つと、そこにいた少女に目を奪われる。
小柄な身体で半裸の少女を背負って時よりよろめきながらも懸命に友達を運ぶ少女。
「木乃香・・・・」
 マコトはすぐに我に返り、身を隠す。
 今はまだ木乃香に会うことは許されない・・・・。
 マコトは桜の木の陰から木乃香の姿を一度見つめ、頭を切り替える。
「ごめん。木乃香・・・・」
 顔を伏せ小さく呟いてマコトは桜通りを後にした。
「・・・・ん? マコっちゃん?」
 近衛木乃香は懐かしい声を耳にした気がして、振り向くがそこには誰も居らず、ただ桜が夜風に揺られていた。
「そんなわけあらへんか・・・・」
 そう呟き、少し寂しそうな笑顔をみせた。


“木乃香には会わんのか? あの娘のことじゃ伝えればすぐ此処に来ると思うがのう・・・・”
“会いたくありません。それと学園長、俺の事は木乃香や刹那には伏せておいてください・・・・。”
“・・・・それはお主の本意か? それとも徳川と近衛のしがらみの所為か?”
“・・・・本意です”


「発見、ん? 三人に増えてるな・・・・」
 だが、魔力があるのは二人だけだな。まさか従者とか? 従者持ちの魔法生徒なんて居たっけか?
 とりあえず笛を口に銜え、一気に建物の上へ飛び上がり、おもっきり笛を吹く。
「ピィィィィィイイイイ!!!」
 着地。
 三人の視線がマコトに集まる。
「は~いそこまで~。学園風紀委員で~す」
目の前に居るのは何故か下着姿の金髪幼女と中等部の制服を着て、耳にメカちっくな何かをつけた女性、そしてその女性に何故か締め上げられているメガネのガキ。
「なんだ貴様は?」
 金髪幼女が腕を組んで、いかにも不機嫌そうにそう言う。
「だから学園風紀委員だって言っただろ? 学園内での攻撃魔法の使用は禁じられてんだよ。はい、さっさとクラスと名前を言え。」
 マコトは腕章に引っ掛けているボールペンを取り、メモ用紙を胸ポケットから出す。
「茶々丸!」
 そう聞こえるとメカ耳はメガネガキを開放して、マコトに向き直る。
「・・・・」
 む、かわいい・・・・。
「失礼します」
 感情のこもっていない謝罪の言葉が聞こえた瞬間メカ耳はマコトとの距離を詰め、同時に右拳を放つ。
 メカ耳の右拳はしっかりとマコトの頬を捉え、直撃する。
「っ!?」
 ・・・・振り抜けない。
 茶々丸の右拳は確かに直撃した。だが、当たっただけで拳を振り抜く事が出来なかった。
「良い右を持っていますねお嬢さん。世界狙えますよ」
 茶々丸はもちろん手加減していた、相手はただの人だと思って力をセーブして青年が気を失うくらいで尚且つ命の危険性がない程度の力で拳を放つも、当の相手は気絶するどころか笑ってみせた。
「くっ!?」
 茶々丸は無意識の内に距離を取ってしまう。
「貴様、今なにをした? 茶々丸の一撃はただタフなだけでは受けきれる物ではないぞ?」
「誰が教えるかガキが!」
 マコトは金髪幼女を見下ろして、堂々とそう言い放った。
「き、貴様・・・・」
 金髪幼女は方をピクピクと震わせる。
「見つけたわよこの変質者ども――――!!!」
 そんな声と共に新たな少女が屋根の上に降り立つ。
 ツインテールの髪を揺らし、小さなベルのリボンをアクセントが光る。またしてもかわいい。
「か、神楽坂 明日菜!!」
「あっ、あれ――――? あんた達ウチのクラスの・・・・ちょっどういう事よ!?」
 少女達は互いの顔を見ては驚いていた。
 なんだ? どういう展開だコレは? どいつに反省文書かせたらいいんだよ! 更に新たに現れたこのベルっ娘誰?
「まさか、あんた達が今回の事件の犯人なの!? しかも二人がかりで子供をイジメるような真似して。答えによってはタダじゃ済まさないわよ!」
 この言い草から推測するにあそこにいるメガネガキの姉か?
「チッ! 今日は客が多い。出直すぞ茶々丸!」
「あっ、ちょっと!」
「先生、今度は必ずその血をいただくよ。そしてそこのお前、顔を覚えたからな!」
 茶々丸の腕に乗り、去っていく金髪幼女。
「くっ、逃がすか! サヤ!!」
 マコトの傍に黒い靄のようなものが現れる。そしてその靄は形を変えて生まれる。

 白銀のセミロングの髪を風に靡かせ、黒のトレーニングウェアを着た少女が姿を現した。
「追え」
 少女はコクンと頷いて姿を消す。
「さてと、そこのガキ・・・・もとい、そこのボーヤのお姉さんですか?」
「え? 私? え、あの、その違います! コイツは単なる居候で・・・・」
居候・・・・?
「まぁ、いいや。おいボーズ、名前とクラス教えてくれるか?」
 メガネガキは顔を上げると目を潤ませ、今にも泣きそうな顔を見せる。
「・・・・あ、あの。ありがとうございました」
 へ?
 突然の感謝の言葉にマコトは驚いた。
「うぅ・・・・本当に僕、殺されると思いました。うわぁぁぁぁああん!」
「おいっ! ちょっ!? おまっ!?」
 少年は目の前に居たマコトに抱きつく。
「あの、お姉さん。この子何とかしてください!」
「だから私は姉じゃありません!」
「こっこわ・・・・こわかったです――――」
 マコトは自分に纏わりついて泣きじゃくる少年の姿を見て、昔の自分の姿を見た。
  小さい時の俺もよくお袋に泣きついてたな。そうするとお袋は・・・・。
 こうやって頭を優しく撫でて・・・・。
「今の貴方は確かに弱い、だけど。こんな事で泣いていたらいつまで経ってもお父さんには追いつけないし、追い抜くなんて夢のまた夢だ」
 ネギはその言葉にハッとしてマコトを見上げる。
「泣くな、なんて言わない。ただ一度涙を流したならその分自分を強くしなさい。泣いてどうにかなる事なんて何もないのだから。強くなりな!」
 そして最後に軽く頭を小突く。
「なーんて言ったけど、お袋の請け売りにすぎないがな。」
 ネギはさっきまでの泣き顔はどこへいったのやら、今では清々しい顔をしてマコトを見上げていた。
「あの、ありがとうございました!」
 ネギはもう一度感謝の言葉を口にした。今度は姿勢を正し、頭を下げた。
「いや、俺はただ魔力を辿ってきただけで・・・・」
 そう面と向かって礼を言われるとなんだか照れくさいな・・・・。
「って、忘れてた! お前、名前なんて言うの?」
「僕ですか、僕はネギ・スプリングフィールドです。」
「ふーん。ネギ・スプリングフィールドね。」
 マコトはポケットから四つ折にした一枚の用紙を取り出す。
 そこに載っているのは現在麻帆良に居る全ての魔法関係者の名前がずらりと並んでいる超極秘資料である。
「えーと。ネギ、ネギ、ネギ・スプリングフィールド・・・・」
 あ、あった。
 ネギ・スプリングフィールド(10) 女子中等部3年A組 教師。
 ふーん。女子中等部教師ね・・・・。
「教師!?」
「はい。そうですけど・・・・」
 10歳で女子中等部の教師か・・・・羨ましいな。
 どこがって、決まってるだろ! 女子中等部ってところがだよ!!
 いや、待てよ。俺も今から猛勉強して教師免許取れば・・・・。
「あのー。どうかしました?」
「あ、いや、なんでもない。それよりも、はいコレ。」
 マコトの手からネギに渡されたのは反省文と書かれた紙切れ。
「あのー。コレはなんでしょうか?」
「簡単に説明すると。俺は学園風紀委員、学園内で攻撃魔法を使うバカ共を取り締まる人。貴方攻撃魔法使った人。お分かりかな?」
「ちょっと待ってよ、今回ネギは悪くないのよ」
「そんな事言ってもね~。・・・・ハッ!?」
「な、なによ・・・・」
 しまったぁあああああああ!! 一般生徒が居る前で魔法の話を・・・・。
 ど、どどど、どうしよう!? 俺、相手の記憶を消す魔法も使えないし。
 と、とりあえず落ち着け! こうなった以上、殺るか・・・・。
 アホかぁああああああ! 一般人殺してどうすんだよおおおおお! 大体無抵抗の女の子に手を出す事自体俺にはできねぇええええ!
「あ、あの。アスナさんは一応魔法の事知ってるんです」
 アスナの顔を見て異常な量の冷や汗を流しているマコトの姿を見て、なんとなく察したネギがそう言う。
「え? あ、なんだそうなのか・・・・よかったぁ~」
「話戻すけど、今回ネギは悪くないのよ。ネギはさっきの奴らに襲われてた教え子を助けただけなんだから!」
 やはり、姉にしか見えないな。必死に弟を護っている姉にしか見えない。
 まぁ、それは良いとして。襲われた娘ってココに来る途中で木乃香が運んでいた半裸のあの娘の事だろう。でも、さっきのやりとりを見る限りでは同じクラスメイト同士みたいな事言ってなかったか?
「・・・・すまん、話が見えないのだが。逃げたあの二人もネギ先生のクラスの生徒なんですよね?」
「・・・・はい。」
「なんでクラスメートを襲うのですか? その利点はどこに?」
「僕もさっき知ったんですけど。あの人、エヴァンジェリンさんは僕の血を狙っているんです。」
 そこからネギの説明はマコトにとって信じられない事、山の如しだった。
 さっきの金髪幼女があのエヴァンジェリンA・Kマクダウェル本人であり、かつてネギの親父に負けて以来魔力を極限まで封じられる呪いを掛けられ、その呪いを解くには血縁たるネギの血が必要。
 話としては通っているが、信じ難い。
大体あのエヴァンジェリンを封じたネギの親父ってどんだけすげーんだよ。
・・・・? ネギ・スプリングフィールド?
スプリングフィールド? 
「ネギ先生。もしかして、あなたの父上は全魔法使いの憧れであるあの有名人ですか?」
「え? あ、はいそうです。」
 きっぱり言いやがった~。だが、落ち着いて見ればネギ先生から感じる魔力は大きい。
・・・・しかもまだ奥に何か眠っている感じがする。
 という事はあの金髪幼女も本物の・・・・調べてみるか。
「とりあえずわかりました。今回の事は無かった事にします。最初に断っておきますが、この件に関しては風紀委員としては協力できません」
「ちょっと待ってよ、貴方も魔法使いなんでしょ? だったら」
 マコトはアスナを手で制す。
「ですが、俺個人としてはネギ先生に協力しましょう。エヴァンジェリンにも興味をそそられますしね」
 その時、屋根の上に降り立つ白銀の髪の少女いた。
「ダメだったか?」
 マコトが少女にそう訊くと、少女はコクンと頷いた。
 うーむ、サヤが撃退されるとはな。あの従者も別格って事か・・・・。
「すごーい。髪サラサラ~」
「うわっ、本当だ。操影術、聞いた事はあったけど見るのは初めてです。」
 ますますあの金髪幼女を調べる必要が出てきたな。
「魔法ってこんな事も出来ちゃうんだ。」
「・・・・いくら魔法でも人を生み出すなんて出来ないんです」
 明日にでもちょっくらカマ掛けてみるか。
「でも、だってほら肌だって柔らかいし、体温だってあるわよ?」
「正直、驚いています。こんなのは見たことないですから」
「って、あんたら何やってんだ?」
 マコトが気が付いた時、サヤはアスナの玩具になっていた。
「あ、アハハハハ・・・・」
 アスナは慌ててサヤから離れると頭を掻きながら乾いた笑い声をあげる。
「すいません。あまりに凄い魔法だからつい・・・・」
「ただの操影術ですよ。それに両親の話じゃ未完成らしいですし・・・・」
 マコトはユックリと手を翳すと少女は黒い霧となって消えた。
「今ので完成じゃないないて完成したらもっと凄い操影術になるんですね!」
 目を輝かせながらマコトの顔を覗きこむネギ。
「え? あ、いや・・・・多分」
 マコトは少し照れながら頬を掻いて、曖昧にな返事を返す。
「あのよかったらお名前を教えてくださますか?」
「・・・・ああ、俺はマコト。男子中等部3年B組徳川マコト」
「マコトさんですか。これからどうぞよろしくお願いします」
 握手を交わす二人。夜はゆっくりと暮れていく。
 翌日。
 マコトは朝からの授業を華麗にサボタージュをかます。
 そして、とある魔力を追って、建物の上に降り立つ。
「貴様、昨日の風紀委員!」
 マコトの前に居るのは金髪幼女改めエヴァンジェリンだった。
 そして、マコトの姿を見るなり主を護るように一歩出る茶々丸。
「お前が本当にあの賞金首600万のエヴァンジェリンなのか?」
「小僧にしては勉強熱心じゃあないか。・・・・そして、それを聞いてお前はどうするつもりだ?」
 エヴァンジェリンは腕を組みながら、不敵に笑う。
「もし、アンタが本当にあのエヴァンジェリンなら、今までの非礼を詫びると共に是非とも一度勝負していただきたい!」
「相手が吸血鬼の真祖とわかっているのに勝負を挑んでくるとは・・・・よほど自信があるのか、それとも単なるバカか。だが、生憎と私が真祖の吸血鬼だと証明する物は無い。今の私は見ての通りの人間そのものだからな」
 そう言うエヴァンジェリンの顔は先程の不敵な笑みとはうって変わり、どこか落胆と諦めの色が出ていた。
「アンタが本物かどうかは今度の学園都市のメンテでわかる事だ」
「? どういう意味だ?」
「この学園には高度な結界が張りめぐらされている事は知ってるだろう? この結界は強大な魔力を保有した者の侵入を阻み、例え進入されても結界内にいる強大な魔力保持者はその結界の影響を受けてその魔力を抑えられてしまう」
「なんだと!?」
 エヴァンジェリンは驚きの声を上げる。
「そしてその結界を24時間稼動させるには人ではまず不可能。だからこの学園都市の電力と連動して稼動している」
「つまり、今度の学園都市のメンテ中は結界が消え、私の魔力が戻ると?」
 マコトはゆっくりと頷く。
「その話、信用に値する証拠は?」
「パソコンで軽くこの学園のデーターベースに侵入すればわかる」
「・・・・」
 二人の間に暫し沈黙が訪れる。
「なぁ、賭けをしないか?」
 先に沈黙を破ったのはマコトだった。
「賭け?」
「そう。俺の話を信用するなら、アンタはこの後コンピューター室へ行って調べれば良い。ちょっと不公平だが、俺はアンタがエヴァンジェリンだと信じてメンテの日を待つよ。それでどうだ?」
 エヴァンジェリンはすぐに不敵な笑みを見せると、マコトの目を見て告げた。
「・・・・小僧、誰に向かって口を利いている」
 エヴァンジェリンが口を開いた瞬間辺りの空気が一変し、重たく、冷たい空気がたちこめる。
 な、なんだ!? か、身体が動かない!?
「小僧、貴様の話信じてやろう。だが、条件がある。私達をメンテの日まで護れ。そしたら貴様の相手をしてやろう・・・・」
 ほんの一瞬だが、マコトの目に映った金髪幼女は満月と闇の支配する夜を背負っている様に見えた。
「ではな、小僧。メンテ日までよろしく頼むぞ」
 エヴァンジェリンはそう告げると、茶々丸と共に屋上を去っていった。
「・・・・っ!?」
 先程までたちこめていた重たく、冷たい空気は消え去り、マコトの金縛りも解けたが、
「俺は恐れていたのか・・・・あんな魔力の欠片も無いような女の子に!」
 金縛りが解けた途端にマコトの身体に異変が生じる。全身の震えと異常な量の冷や汗だ。
「本物だと・・・・言うのか!」
 だが、今の覇気・・・・。
今まで生きてきて自分の死をイメージしたのは今日がはじめてだ・・・・。
「フッ、これはメンテの日が楽しみになってきたな・・・・フフフ」
 いいだろうエヴァンジェリン。俺の魔力探知をフルに使ってお前達を見張ってやろう。


 そして夕方。
「・・・・どうだ?」
 コンピューター室でパソコンを扱う茶々丸にそう訊くエヴァンジェリン。
「あの人の言う通りです。マスターの魔力を抑え込んでいる結界があります。」
「フン。十年以上気付けなかったとはな・・・・あの小僧に感謝しなくてはな」
 薄暗いコンピューター室に夕陽の赤い光が差し込む中、エヴァンジェリンは不敵は笑みを見せる。
「・・・・出ました」
 不意に茶々丸の声が響いてエヴァンジェリンはパソコン画面を見ると一人の生徒のデータが露わになっていた。
「ほう。あの小僧か。徳川マコト、男子中等部3年B組・・・・ん? 徳川?」
「なにか、気になる事でも?」
「いや、気のせいだろ・・・・」
 フフフ、もう少しだもう少しでこの忌々しい呪いが解ける!
魔力さえ戻ればぼーや血など容易く手に入る。しかも暇つぶしのオマケ付きときたもんだ♪ フフ、アハハハハハハ!!


次の日。
 俺の名は徳川マコト。今年で16歳になる天然ウルフヘア~が似合うワイルドBOYさ。
女性の知り合いは沢山いるけど飽くまで御友達の関係で、それ以上になった事なんてさらさらない・・・・。
そんな俺だから未だにkissはおろか、手を繋いだ事もないcherryな俺だ。
だが、俺よりももっと悲惨な男達が犇くのウチのクラス3年B組だ。
「ぬぉおおおおおお! 愛が! 愛が欲しい!!」
「何故だ! 何故彼女達は俺に振り向かんのだぁぁああああああああ!!!」
 男子中等部3年B組の放課後。飛び交うモテない男達の心の叫び。
「いや、もうオッパイしかないっ! オッパイが全てだ!」
「そうだ! 俺達にはオッパイがあるじゃないか!!」
 因みにこのクラスオッパイとはしずな先生を指す。
「「「オッパイ! オッパイ !オッパイ !オッパイ !オッパイ!」」」
 はぁ~。そんなだからモテないんだろうが。
 あと、ついでに言っとくが“しずな”は俺の嫁だ。
 男子中等部3年B組。いや、一年の時からB組は不思議な事に彼女持ちが一人も居ない。なんとも素敵なクラスなのである。別名B級クラス。
“モテない男、B級男の溜まり場”だそうだ。
 ここでオッパイコールを一瞬でかき消す秘策がある。
「うぃ~野郎共。ここにカラオケエデンのファイナルエデンチケットが一枚。これによって10人までが飽きるまで歌い放題、飲み放題、食べ放題のスペシャルチケットだ・・・・」
 マコトがそう言い終わると、クラスは静まり返る。そして生徒の一人がきりだす。
「・・・・そのチケットに女の子はついてきますか? マコトさん」
 マコトは一度不敵に笑い、言った。
「もれなく5人ついてきます・・・・」
 教室の空気が一変し、先程までオッパイコールでの一体感は嘘のように消え失せ、男達は各々が戦士になる。
「相手は女子中等部3年B組! 行けるのは当然5人まで。よってこれより第50回幸運な男は誰だ! B級クラス大阿弥陀くじ大会を開催します!」
「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
 俺は気分次第でこうやって同士達に合コンの場設けている。
 何故かって? B級組のイメージを払拭する為・・・・だが、逆効果だ。という意見も出ている。
 が、しかし。危険を冒さずして秘宝は手に入らんのだ! 
 と、力説したが俺自身は合コンが嫌いなのだ。理由は簡単、俺には最初から御友達認定マークが付くらしい。
 だから俺は運命的な出会いって奴を信じてる! 
 という訳で5人選抜も終ったので校舎の上で精神を集中させ、地図上の麻帆良を影で覆う。
 放課後特に異常無し。エヴァンジェリン一家にも近づく魔力無し。
「また、コンビニ前に移動してるな・・・・」
 最近、風紀委員の仕事をするようになってから妙な魔力の持ち主が放課後になると必ずネギクラスからコンビニまで移動しているのだ。
 俺のセンサーに反応するがコイツが放っているのが魔力の波動なのか気の波動なのか未だに判別できない。
 しかもコンビニまで移動しておきながら、中に入ろうとしないのだ。もう訳がわからん。
 いつもは7時頃に俺も引き上げるのだが今日はコイツがいつまでコンビニの前に居るのかサーチしてみるか。
・・・・。
・・・。
・・。
「21時半だバカ野郎!」
 いくらなんでも怪しすぎる。放課後と同時にクラスから出たと思いきや真っ直ぐコンビニに向かって、しかも中には入らないし、友達の姿も確認できない。
「流石にコレは普通の風紀委員として見逃せないな」
 マコトは即座にコンビニ前まで移動し、何となく電柱の上へ。
「目標は・・・・居たっ!?」
 コンビニの前に居たのは見た事もないセーラー服を着た見目麗しい少女だった。
 か、か、かわいい・・・・。
 だが、その少女の周りには明らか過ぎる程火の玉が浮いていた。
「ふむ。明らかな幽霊だな・・・・」
 別に珍しいものではない。昔から見てきたし、この世には幽霊なんかよりも恐ろしい存在なんて腐るほどいるってお袋も言ってたしな。
 なるほど幽霊か、通りで変な反応だと思ったぜ。
「にしてもだ・・・・さっきから何してんだ?」
 少女は女生徒がコンビニ前を通る度、中に入る度に一度近づいては肩を落としてまた定位置に戻る仕草を繰り返していた。
「幽霊は人が死んだ時に無念や、やり残した事があると魂だけの存在となってこの世に存在すると言う。つまりあの娘も何か蟠りがあるという事だな」
 行動を見るに・・・・誰か捜してんのか?
 ふーむ。知り合いを捜してんなら特徴がある筈だ。なんで無差別に近づく?
 しかも、あのセーラーは恐らく昔の此処、麻帆良の制服だろ。推測するに何十年前の物だろう。
 知り合いを捜すならまず此処には居ないだろ。
「まさか!? 取り付きやすい娘を捜しているのか!? 調べてみるか」
 マコト静かに電柱の上から下りると、何食わぬ顔でコンビニへ向かう。
 幽霊少女の横を通り過ぎる瞬間にチラっと幽霊少女に目をやり、店内へ。
「ふーむ。男には寄ってこないのか・・・・」
 マコトはとりあえず、コーヒー牛乳を買って、再び外へ。
 今一度、少女の方に目をやると。
 暗い顔したまま涙をその目一杯に溜めていた。
 な、なんだ!? 俺か!? 俺が何かしたか!?
 マコトは自分が少女の横顔を見つめている事に気づき、一目散に電柱の上へと逃れた。
「ハァ、びっくりした~」
 なんなんだよ、何で泣いてんだよ。
 マコトはコーヒー牛乳を飲みながら少女の観察を続けた。
 そして少女の行動を見る内になんとなくだが、あの少女が何を求めているのかわかってきた。
 昔、お袋が言ってな。“幽霊という存在が一番求めるのは人だよ”悪霊だろうが、地縛霊だろうが、元は人。孤独には勝てないのよ。
 だから、存在する理由はどうあれ生きてる人間に絶対的に関わろうとする。結局はね皆寂しいのよ。人は死んでもそれは変わらないみたいね。
「・・・・寂しいか」
 呟いて、マコトは再び少女を見下ろす。
 既に時計は22時を指し、コンビニ前の通りを行く人も少なくなっていた。
 そこに駆け足で来る女生徒が通る。少女は自分の両頬を叩いて気合を入れる。
 おっ、気合入れた。
 そして少女はいざ通り過ぎる女生徒に近づこうとした矢先、見事にコケたのだった。
 女生徒はそんな事は露知らず走り去って行った。
「・・・・ぶーっ!!!」
 その光景を電柱の上から見ていたマコトは耐え切れず口の中のコーヒー牛乳を吹き出してしまう。
「アハハハハハハハッ!」
 電柱の上から聞こえてくる青年の笑い声に少女は周りを見渡す。
「な~にやってんだお前~♪」
 マコトは電柱の上から飛び上がり、少女の前に降り立つ。
「お前、面白すぎ。ハハハッ、幽霊が転ぶなんて初めて見たぞ」
 少女は突然現れ、しかも幽霊である自分に気づいて、尚且つ自分に話しかけて来る青年を呆然と見ていた。
「ん? お~い? 聞いてるか~?」
 マコトは少女の目の前で手を振る。
「・・・・えっと、あの、あの、その、わわわわ、私、相坂さよと言いますそれでその今日は良い天気ですね£#$ж%Ю☆㌦!!!」
 少女は目を回しながらしどろもどろになっていた。
「・・・・俺は徳川マコト。よろしく相坂さよさん」
 マコトは一度静かに笑うと、自己紹介と共に手を差し伸べた。
「えっと、あの、よ、よよよよ、よろしくお願いします」
 当然触れられない、だから形だけの握手。
「それにしてもお前、面白いな。さっきの光景は流石に笑えたぞ」
「うぅ。足もない幽霊が躓くなんて誰にも言わないでください~」
 るー。と涙を滝のように流すさよ。
「生憎とそんな話を信じる奴は俺の周りには居ねーよ」
 マコトは笑いながらそう言った。
 するとさよは俯きながら切り出す。
「・・・・あ、あの。こんな事言うと厚かましいかもしれませんけど、その、あの、わ、わわわわ私と、と、とととと、とも、」
 さよは顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながらも一度息を大きく吸うと。
「わ、私と・・・・と、友達になってください!」
「いいよ」
「え? 早っ!? 本当に良いんですか!? 私、幽霊ですよ!?」
「幽霊だろうが、妖怪だろうが、ロボットだろうが、悪魔だろうが、愛と友情の前では種族の壁など無いのだ。てか、そんな事わざわざ言わなくても俺達もう友達だろ?」
 マコトは優しく微笑みながらそう言った。
 さよは俯きながら静かに涙を零した。
「ちょっ、どうした!? 俺なんか悪い事言ったか!?」
「・・・・うぅ。違うんです、そんな事言ってくれる人今まで居なかったから」
“結局はね寂しいのよ”
 マコトの目の前で涙を流すさよの姿にお袋の言葉が重なる。
「泣くなよ、今日はこのまま話聞いてやるから」
「・・・・わ、私この道60年地縛霊やってるんですけど、全然クラスのみんなに気付いてもらえなくて・・・・うぅ」
「マジで? 確かさよは3-Aだろ?」
「・・・・はい」
「楓とか、刹那とか、木乃香とか、ましてネギ先生とかにも気付いてもらってないの?」
「・・・・はい。マコトさんは凄いですね、長瀬さんや桜咲きさん、木乃香さんまで友達だなんて・・・・」
 さよは瞳を涙でいっぱいにしながらマコトにうらめしそうな視線を送る。
 な、なんだ!? 身体が重いぞ・・・・。
「うらめしや~うらめしや~」
「ま、まぁ、落ち着け。お、俺もさよがクラスでの友達が作れる様に協力するからその負のオーラを放つのはやめてくれ・・・・」
「絶対ですよ♪」
 先程の泣き顔はどこへ言ったのやら、さよは満面の笑みをしながらそう言った。
 俺はやっかいな娘に自ら声を掛けたのかもしれない・・・・。
「なぁ、刹那と木乃香はどうだ? いや、その、深い意味は無いんだが元気にしてるか?」
 俺は何を言ってるんだ・・・・。
「はい? どうしてそんな事を訊くんですか? 連絡とってるんでしょ?」
「ああ、そうだったな。ごめん・・・・」
 しっかりしろ徳川マコト! まだ、木乃香や刹那に会う訳にはいかない。
 俺が・・・・俺が徳川を再興をするまでは木乃香や刹那には会わないと決めたんだ! その為にはもっと強くなる必要がある。
 自分が出来る事は全部やったつもりだ。現に少なからず身についた物もある。
 あと俺に足りないのはズバリ実戦だ! その為のエヴァンジェリン。
 もしエヴァンジェリンに一撃でもまともに入れられたなら近衛の実行部隊に十分通用する筈だ! そして実行部隊を打ち倒し、再び近衛家実行部隊取締徳川家を再興する!!
俺の所為で失われた徳川家を俺の手で再興し、そして堂々と木乃香と刹那の前に立つ!!
 そうだ、揺らぐな。もうすぐだ、もうすぐなんだ! 
「・・・・? マコトさん? どうしました?」
「・・・・いや、なんでもない。さよ、今日はありがとな。大切な事を思い出させてくれて」
「? なんの事ですか?」
「また、今度ここで話しようぜ。じゃな!」
 青年は走り去って行く。徐々に闇に溶けていく青年の後姿を幽霊少女はドキドキしながら見つめていた。
“また、今度ここで話しようぜ”
 その時青年が見せた精悍な表情は幽霊少女に多大な衝撃を与えていたのだった。


 翌日。
 今日も朝から、エヴァンジェリン一家を見張ってます。と、言っても魔力反応で監視してるだけなんだがね・・・・。
 昼、特に異常無し。
 15時、僅かな休憩時間にて女子中等部校舎から微量の魔力波動を感知。
「・・・・この感じ仮契約(パクティオ)? だとしたらいいな~実に羨ましい!」
 放課後。一応屋上にて待機。
 現在二人は茶道部にて活動中・・・・。
「茶道部に近づく魔力あり。デスメガネ(高畑)だな。」
 デスメガネ。エヴァンジェリン一家に接触。ふーむ。エヴァだけデスメガネと共に移動。
「呼び出しでも受けたか・・・・」
 二手に分かれた。うーむ・・・・流石にデスメガネがいきなり襲い掛かる事はないだろう。という訳で茶々丸さんだったけ? 可愛かったよな・・・・。
「いかん! 何を想像してるんだ! とりあえず茶々丸さんを近くで監視だ」
 始めに断っておくが、ストーカーとかじゃないからな! これはあくまでボディガードとしての仕事の一環としての行為であって、別に茶々丸さんの行動と見つめたいとかじゃないんだからね!!
 マコトは遠巻きに茶々丸の尾行を始める。
・・・・尾行を始めて数十分後、マコトは泣いていた。
「な、なんていい娘なんだ・・・・」
 茶々丸は困っている人をなんの躊躇も無く次々と助けるスーパー女子高生だった。
 ある時は風船を木に引っ掛けてしまい泣いている女の子に風船を取ってあげ。
 ある時は階段で苦労している婆ちゃんをおぶって、運んであげ。
 ある時は川に流された子猫を自ら川に入り、助けた。
 茶々丸さんがロボットだったのはちょっとびっくりしたが、彼女の行動は実に素晴らしい。特に川に流された猫を救出した茶々丸さんの姿を見た時は自然に涙が溢れた。
 正直、川に流された子猫を見た時、俺は可愛そうと思った。
どんどん流されて行く子猫を見ながら“誰か助けてやれよ”と思ってしまった。
 だが、茶々丸さんは何の躊躇も無く、川に入って行った・・・・。
 それはロボットだからか? プログラム通りに動いただけなのか?
 違う。今も俺の目の前で猫達に餌をあげている茶々丸さんの顔は笑っている。
 俺は自分自身が情けない・・・・。あの時、“助けないと!”と思えなかった自分が情けない。同じように心を持つ者として自分が情けない!
「俺も・・・・負けないぜ。ん?」
 マコトはふと視線を茶々丸に戻した時、茶々丸の前にネギ先生とアスナ嬢が立っていた。二人の表情はどこか暗い。
 マジか・・・・ネギ先生。初めて逢った時はこんな行動は取れないと思ったが、まぁ、関係ないか。こうなった以上俺は茶々丸さんを護らないと。
 瞬間、ネギが詠唱すると魔力がアスナの身体に供給される。
 コレは仮契約(パクティオ)!? 昼のはネギ先生とアスナ嬢との物だったのか!?
 アスナは茶々丸との距離を一気に詰め、でこピンを繰り出す。
「っ!?」
 その間にネギは攻撃魔法を完成させる。
「魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・光の11矢(セリエスルーキス)!!」
 11本の凶光が茶々丸に迫るその時。
「徳川マコト我流奥義! 職人さんごめんなさい(ザ・コンクリート)!!」
 茶々丸の前に突如として現れた分厚い一枚のコンクリートの塊。
 ネギの放った11本の凶光は一枚のコンクリートの塊を崩しただけで終る。
 そして砂煙の中から両手を組んだマコトが現れる。
「言った筈ですよネギ先生。この件について学園風紀委員としては協力出来ないと・・・・」
「マコトさん・・・・」
 ネギが杖を握る力を緩めた時、茶々丸はブースターを展開してこの場を離脱する。
「ふぅ。それにしても今回は随分と大胆な行動を取りましたねネギ先生」
 茶々丸が離れていくを確認した後、マコトは全身の力を抜いた。
「・・・・マコトさん、助かりました」
 ネギはそう言うとその場にへたり込む。
「兄貴! そんな事言ってる場合じゃないっすよ! この野郎はせっかくのチャンスを無駄にしたんすよ!」
 物陰から出てきた喋るオコジョはそう言いつつ、マコトにメンチを切る。
 オコジョが喋ってる・・・・確か何かの文献で読んだ妖精の類だったような。
 ケットシーって奴か。そういえば昔、喋るオコジョが出てくるアニメなかったか?
「まぁ、いいや・・・・」
「テメェ! まぁ、いいやじゃねーんだよ! どこの馬の骨かしらねーがよくも邪魔してくれたな! このおとしまえどうつけてくれんだコラ!」
「ちょっと、やめなさいよエロオコジョ」
「止めないでくださいよ姐さん!」
「なるほど、今回のネギ先生の大胆な行動の原因はコレか・・・・」
 マコトはカモを素早く捕まえる。
「テメェ! 放しやがれ!」
「おい、オコジョ。今回もし、この作戦が成功して茶々丸さんを破壊したとしてその後の事は考えてあるのか?」
「え?」
「作戦は悪くない。魔法使いと従者、二人揃っているならほぼ無敵だ。だから各個撃破は定石通りだ。しかし魔法使いにとって従者とはただの道具ではない、互いに信頼しあった相棒だ、それを殺されたとなれば残された魔法使いがとる行動は容易に想像出来るな・・・・」
 それを聞くなり二人と一匹の顔が青ざめていく。
「そしてネギ先生の事だ、そんな事をするれば負い目を感じて自殺しかねんな。まぁ、自殺したくても怒り狂った吸血鬼に邪魔されてもっと酷い目に合うだろうな・・・・カワイソウに」
 そこまで言うとマコトの手の中でカモは泡を吹いて失神していた。
「ありゃ、ちょっと言い過ぎたか」
「マコトさん! もし、マコトさんが僕の立場ならどうしますか?」
 マコトはカモを捨てると、ネギに背を向けた。
「そうだな、俺なら同じ土俵に立って、正面から堂々とぶつかっていくかな?」
「同じ土俵に立って・・・・」
「どういう意味?」
 アスナは首を傾げるが、マコトはそれ以上なにも言わず去っていった。


「そうか、あのぼーやがそんな行動を・・・・フフ」
 三日月が照らすエヴァンジェリン邸にて。
「やはり、助言者がついたという事か。そしてパートナーに神楽坂明日菜」
 バルコニーに設けられた椅子に身体を預け、三日月を眺めながら赤い液体が入ったグラスを掲げる。
「マコトも約束を守った。今度はコチラが約束を守る番かな・・・・」
 エヴァンジェリンは赤い液体を一気に飲み干すと月を見上げ不敵な笑みを浮べるのだった。


次の日。
 早朝、麻帆良から少し離れた山にて。
「おや、流石マコト殿時間通りでござるな」
「物は?」
「ここにあるでござるよ♪」
 そう言う楓の手には巻物が一つ握られていた。
「では、始めるでござるよニンニン」
「手加減はしないぜ、楓」
「手加減してはコレは取れないでござるよ♪」
 瞬間、楓の分身が7人まで増える。当然巻物を持っているのは一人。マコトは巻物を持った楓に狙いを定め、身体に魔力を通す。
 俺は楓に虚空瞬動の講師を頼んだのだ、そうしたら虚空瞬動の伝書を持っていると言うじゃないか。それを見せてもらう条件は一つ!
 楓から伝書を奪う事!
 マコトは瞬動を使い、一気に巻物を持っている楓に近づく。
「っ!?」
 だが、突如横からクナイが三本飛ぶが、すぐに払う。
「なるほど、7人の内6人が俺の邪魔をしてくるという訳か・・・・」
「邪魔者ありの鬼ごっこでござるよ」
「上等!!」
「ほらほら、お喋りしている内に巻物はあんな遠くに行っちゃったでござるよ♪」
「あっ! ちょっ! 逃がさん!!」
 マコトは足に供給する魔力の量を増やし、力を入れ、一気に飛翔する。
 木の天辺までくると木伝いに巻物楓を追う。
 瞬間、またもやクナイがマコトに迫る。マコトはすぐに払うが・・・・
「なっ!? 爆札!?」
 クナイに付いていたのは漢字で“爆”と書かれた札、原理はわからないが放たれて数秒すれば爆発する恐ろしい札だ。
 マコトは爆風で吹き飛ばされ、なんとか別の木に着地して顔を上げた瞬間、目の前に楓が居た。
「くっ!?」
 楓の撃蹴をなんとか両腕でガードし、体勢を立て直そうとするもまた別の楓に地面に叩き落され、最後に爆札を身体に直接付けられる。
 7人の楓が木の上から爆心地を見下ろす。ただ黒煙が濛々と立ち上る。
 刹那、黒煙の中から何かが勢いよく飛び出したかと思うと、一番上に居た巻物楓の前にマコトが現れる。そして完全に虚を突かれた楓は数秒反応が遅れ、巻物を持っていた手を蹴られ、巻物を放してしまう。
 主を失った巻物は森の中に消えてしまう。楓はすぐに追おうとするも、足をマコトに捕まれ、一緒に木の上から落下する。
「おぶっ」
 マコトはすぐに立ち上がり、巻物の元へ急ごうとするが、巻物楓に足を捕まれ顔からコケル。
「はがっ」
「爆札を直接受けて、掠り傷とは・・・・やはり、マコト殿には興味をそそられるでござるよ」
「なら、結婚でもするか?」
 その瞬間、別の楓がマコトの背にのしかかり、取り押さえる。
「考えておくでござるよ!」
 巻物楓はシュタタタと去っていく。
「ああっ! くそ! どけ楓4号!」
「ダメでござるよニンニン♪」
 こうなったら吹き飛ぶか・・・・。
「プラグテ・ビギナル。楓4号、俺と一緒にお空でデートでもしようぜ!」
 魔力を右手に集め、一気に放出する。
「ゼロ距離サギタ・マギカ!」
 瞬間、大地に響く破裂音と共に土くれが空高く舞い上がる。
 マコトも同じく空中に居た。
 楓は・・・・居た! 巻物は俺が貰う!!
「か~え~で~。逃がさん!」
 マコトは空を蹴り、巻物楓目掛け急降下。
 だが、5人の楓が立ちはだかる。マコトは武術の心得など微塵もない、だからやる事は一つ。
 相打つ! 相手の攻撃と同時に自分の攻撃を繰り出す。躱して打つ、去なして打つなんて器用な事は俺にはできない。だから俺は正面から堂々とぶつかる!!
 そして終に巻物楓の前に立つ。
「ハァハァ、お前でラストだ・・・・」
「相手の攻撃に臆せず向かって行き、正面から捻じ伏せる。拙者がマコト殿を捻じ伏せるには聊か腕力が足りなかったようでござるな」
 楓はそう言うと巻物をマコトに差し出した。
「え?」
「コレはもうマコト殿には必要ないでござるな・・・・」
 楓は巻物を開くと、中は真っ白だった。
「真っ白じゃん・・・・」
「もう、マコト殿はさっきから虚空瞬動をマスターしているでござるよ」
「え!? うそ!?」
「空中から拙者のところまで来るのに一度使い、更に、6人の拙者とぶつかったのは地面や木の上でしたかな?」
「そういえば・・・・そうか」
「正直、マコト殿から虚空瞬動のやり方を教えてくれと言われた時は焦ったでござるよ。実は秘伝書を無くしてしまって、更に虚空瞬動は拙者もいつの間にか使えるようになっていたでござるから、口で説明はできないでござる」
「そうか・・・・悪かったな、なんか迷惑かけて」
「いやいや、礼には及ばないでござるよ。拙者も楽しかったでござるからな」
 し、しまった!! 落ちるーっ!?
 近くでそんな悲鳴が聞こえ、マコトと楓同時に視線を向ける。
「なんか聞こえたな・・・・」
「拙者が見てくるでござるよ」
「そうか、俺は虚空瞬動をもう少し磨く事にするわ」
「あいあい」


 そして運命の日。早朝。
「ハァハァ、よし。とりあえず寮に帰って風呂入って、寝よう」
 マコトはあれからずっと瞬動と虚空瞬動を繰り返し使用し、自分の動きを確認していた。
まぁ、一日思いっきり学校をサボタージュした訳だけど、別に今日が始めての事じゃないし、問題ないだろ。
寮に戻り、風呂に入ってから携帯を見ると、学園長からのメールが届いていた。
 “今日のメンテ時、学園内の見回りよろしくね風紀委員さん”
                        学園長。
「よろこんで・・・・」
 青年は画面を見ながら僅かに微笑んで、床につくのであった。


 夜。マコトはユックリを目を覚ます。
「・・・・本物だったか」
 この異質な魔力。異常なほど巨大な魔力量。魔法界では最強で最大の存在、祖・吸血鬼。実戦を学ぶにはこれ以上にない相手だ。
 マコトは魔力を追って橋の上まで来ていた。見下ろすとネギが一人犠牲になろうとしていた。
「さて、血を吸わせてもらおうか・・・・フッ、そうだったな。今日はもう一人居たんだったな」
 エヴァンジェリンはネギから離れ、橋の上を見上げる。そこにはマコトが悠然と立っていた。
「どうだマコト私の真の姿は? お前の期待に応えてやったつもりだが?」
 マコトはゆっくりとエヴァンジェリンの前に降り立つと、そのまま片膝をついた。
「貴方様があのエヴァンジェリンA・Kマクダウェルとは露知らず、数々の無礼、お許しください」
「気にするな。そんな事よりもどうするのだマコト? 今の私を見ても尚、私に勝負を挑むか?」
 そしてマコトはスッと立ち上がるとエヴァンジェリンを見据え、言い放った。
「当然!!」
「良い返事だ、ならば全力で相手をしてやろう。茶々丸!」
「サヤ!」
 茶々丸はマコトに向かって走りだすが、それを遮るように銀髪の少女サヤが現れる。
「相変わらず気味が悪い操影術だな、マコト」
「信頼出来る相棒ですよ!」
 瞬間、マコトは瞬動を使い、一気にエヴァンジェリンとの距離を詰めて右拳を放つも、魔法障壁に阻まれる。
 マコトがあのエヴァンジェリンに拳一つで立ち向かっている。そんな姿を見てネギ脳内であの言葉が響く。“俺なら、同じ土俵に立って正面から堂々と”
 ネギはその小さな拳を作り、走りだした・・・・。
「ふむ、随分と磨かれた瞬動だが、その程度の攻撃では私には触れる事さえ出来ん!」
 エヴァンジェリンが放ったのは二撃、腹部を抉る拳と身体を捻った蹴り。
 いずれもマコトにクリーンヒットし、数メートル程吹っ飛ぶが、マコトはすぐに受身をとり、体勢を整えた。
「それだ! 貴様あの時も茶々丸の拳を避けもしないでまともに受けて平然と立っていた! 貴様自分の身体に何をしている!」
「・・・・ただ身体に魔力を流しているだけですよ」
 6歳の時からずっと身体に魔力を流す訓練、いや、自分の魔力を自在に操る訓練だな。そればかりやってた。
 他の魔法は使えなかったから毎日身体に魔力を流してた。毎日毎日・・・・。
 結果、小学5年の時には自分の魔力を自在に操る事ができた。
 自在に操ると言っても、魔力そのものを掌の上に出してド○ゴンボー○のキャラクターみたいに光の玉を出せる訳ではない。
 俺が出来るのは飽くまで身体強化だけだ。自分の身体全体を強化する事はもちろん、身体の特定部位だけ数段強化させる事も出来る。
 やり方は簡単、強化したい部位にそれ相応の魔力を流し込んでやればその部位は強化される。強化された部位は硬度はもちろん、魔法抵抗能力、攻撃力もあがる。
 強化自体は実に便利なんだが、魔力量を計算しながら戦わなければ気が付けば限界よろしく状態になってしまう。
「言わせてもらえば、これから倒す相手に自分の技の秘密を教える奴なんていないでしょ?」
 月が照らす橋の上で冷たい風がマコトとエヴァンジェリンを吹き抜けていった時、一進一退の攻防を繰り広げていた茶々丸とサヤは互いに距離を取る。
そして茶々丸はエヴァンジェリンの前に降り、サヤはマコトの隣に降りた。
「口だけは達者だな。マコト」
「今の言葉後悔しますよ♪」
 その言葉にエヴァンジェリンは一度微笑んで言った。
「ならば後悔させてみろ!!」
 エヴァンジェリンの大音声が響くと同時に駆け出すサヤとマコト。
 二人が一目散に向かったのは従者である茶々丸の元であった。
 前衛はマコト、後衛にサヤで列車の様に突っ込んでくる二人を見て茶々丸は慌てて、マコトの顔面目掛け拳を放つ。
 だが、その選択は彼女を冷たいコンクリートに沈める事になる。
 マコトはすでに首と顔面に部位強化を完了させていた。当然茶々丸の拳はマコトにクリーンヒットするが茶々丸の拳はマコトの脳を揺らす事なく終ってしまい、そしてそこに完全な隙が生まれる。
 気付いた時には既に遅く、マコトの肩を足蹴にして飛んだサヤの踵が茶々丸の頭部を捉え、コンクリートへと叩きつける。
「茶々丸!!」
 マコトは間髪入れず地面を一脚して、エヴァンジェリンとの距離を詰める。
「くっ、貴様の攻撃は私には届かん! リクラック・・・・がっ!?」
 エヴァンジェリンは詠唱に入るも、マコトの拳がエヴァンジェリンの顎を掠ねる。
「貴様・・・・」
「あんたの障壁は凄いな、さっきの一撃は一応ウチの親父の障壁を破った代物だったんだぜ。だが、今のでわかった、あんた障壁の耐久度がな」
 瞬間、エヴァンジェリンの前にサヤが降り立ち、容赦なく激蹴を放つ。
 エヴァンジェリンは躱そうと足に力を入れた瞬間・・・・。
「む? これは!?」
 エヴァンジェリンの見ている世界が廻った。
 結果、サヤの激蹴をモロに受け、数メートル先のコンクリートの上に激突した。
「例え、吸血鬼真祖だろうと身体の構造は人間。脳を揺さ振られれば、人間と同じく脳震盪を起こす」
 マコトは足に魔力を多く流し込み、一脚し、飛び上がる。
 まだかエヴァンジェリン。いつまで待たせる気なんだ・・・・。
  ある程度飛翔したところで更に足に魔力を流し、虚空瞬動で一気に加速する。
 まさか、コレで本気とか抜かすなよ。その魔力量は見掛け倒しかなのかエヴァンジェリン!!
 刹那、マコトの身体が何かに引っ掛かったように止まってしまう。
「これは!?」
 見るとマコトの腕や足、背中に糸の様なものがついていた。
 ドールマスター(人形使い)の力か!?
 マコトは両手足を広げられ、さながら貼り付けの状態だった。
 すると、今までピクリとも動かなかったエヴァンジェリンが操り人形の様に身体を起こし、ユックリとマコトの前に浮き上がる。
 そしてエヴァンジェリンが目を開けた時、何もかもが変わった。
 息が・・・・吸えない。吸ったら殺される。指を動かしたら殺される。目を離したら殺される。目を閉じたら殺させる。何をしても殺される・・・・。
 真紅に輝くその瞳は恐らく誰であろうと恐怖を感じられずにはいられないだろう。
「・・・・ハッ、ハッ、ハッ」
「・・・・」
 恐怖の所為か呼吸が小刻みになってしまうマコトをただ見つめるエヴァンジェリン。
 これが、本物の殺気!! 最強と謳われたエヴァンジェリンの殺気。
 つまり、コレを超える殺気はこの先無いという事になるな。
 そう思うとなんだか嬉しくなってくるじゃねーか!
「・・・・ほう。この殺気の中で笑った奴は久しぶりだ。だが、少々おいたが過ぎたなマ・コ・ト♪」
 ユックリとエヴァンジェリンの手がマコトの腹部にあてられる。
 腹部最大強化!!
 刹那、ドンと和太鼓を叩いたような音が冷たい空気に波紋すると同時に貼り付けになっているマコトの後方のコンクリートの道は土竜が通った後の様に真っ直ぐに捲り上がる。
「がっは!!」
 マコトの口から鮮血が飛び散る。
「アハハハ!! 今の受けてもまだ存命するか、次は耐えられるかな?」
「ガッ! カハっ! 一発で十分だ!!」
 マコトは右腕の糸を引きちぎると、エヴァンジェリンの顔に向かって拳を放つ。当然、魔力を流し威力の底上げを忘れない。
「遅い・・・・」
 エヴァンジェリンはそう呟くとマコトを拳をいとも簡単に止め、一瞬で凍りつかせてしまう。
「がぁああああああああああああ!!!」
「アハハハハハハハ! 可愛い声で鳴くじゃないかマコト!」
 瞬間サヤがエヴァンジェリンの顔目掛け激蹴を放つも躱され、逆に足を取られ、叩きつけられる。
「汚らわしい影が、図に乗るな! む?」
 視線を戻すとマコトが拘束から逃れていた。
「ハァハァ・・・・」
「満身創痍と言ったところかマコト?」
 まったくだ・・・・。
 さっき受けた一撃で身体が自由に動かねぇ、そのうえこの俺の冷凍右腕。
 感覚がまったく無ぇ・・・・。此処までよくやったよな、俺。
 少なくとも、良い経験になった。後は頭でも下げて許してもらうか。
「・・・・冗談」
 現存魔力はおよそ半分残ってる。つまり、一発アレがギリギリだが撃てる!
 当然
、相打ち覚悟で行ってみようか!!
「・・・・エヴァンジェリン。俺の最初で最後の魔法受けてみるか?」
「ほう、その状態でまだそんな口が利けるとは、フッ、良いだろう。貴様の最後の足掻き、見せてみろ!!」
 身体に回している魔力をカット。全て右腕に回す!
 刹那、凍りついたマコトの右腕から蒸気が上がる。
「なっ!? 私の魔法が解け始めただと!?」
 右腕の魔力抵抗能力を限界まで上げ、右腕を強制解凍。
 感覚が戻るまで待ってられない! このまま行くぞ!
 マコトは左手で一枚の手套を取り出すとそれを右手に装着する。
 その手套には一つの魔法陣が刺繍されていた。
「まさか、私の氷を溶かしてしまうとはな。いくぞマコト・・・・リク・ラクラ・ラックライラック来たれ、氷の精(ウェニアント・スピーリトゥス)闇の精(グラキアーレス・オブスクーランテース)闇を従え(クム・オブスクラティオーニ)吹雪け(フレット・テンペスタース)常夜の氷雪(ニウァーリス)」
「プラクテ・ビギナル・・・・」
 互いに魔力の風を巻き起こしながら、手が光出す。
「闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!」
「魔法の射手(サギタ・マギカ)光の一矢(ウナ・ルークス)!!」
 エヴァンジェリンの放ったのは闇と吹雪が一緒になった、闇の暴風。
 マコトが放ったのは本来初期魔法である光の一矢。本来なら負けるのはマコトの方だろう、だが、マコトが放った極太の一矢だった。その姿はまさに中世の攻城兵器であるバリスタを彷彿とさせる代物だった。
「なっ!?」
 さらにマコトはワザとエヴァンジェリンの魔法に自分の一矢をぶつけず、少し遅れ気味に自分の魔法を放ったのだ。
 その結果両者とも直撃コースになった。
「くっ!? 何がサギタ・マギカだ!? この狸め!! 氷楯(レフレクシォー)!! ぐっ! くっ! はね返せんか!?」
 橋の上で二つの轟音が鳴り響く。
 二つの場所で砂煙が上る中、先に姿を現したのはエヴァンジェリンだった。
 その身体に目立った外傷は無く、ほぼ無傷だった。
「マコト。生きてるなら返事ぐらいしてみせろ・・・・」
 砂煙が晴れると、そこにはマコトを護る様に両手を広げて立っている少女が居た。
「悪いサヤ、助かった・・・・」
 マコトはそう言うとサヤは一度頷いて黒い靄となり、消えた。
「まったく、お前の身体には心底驚かされるよ」
 マコトは膝を付いていた。身体の彼方此方が吹雪の所為で凍り付いていた。
「ハァハァ、身体が動かねぇ・・・・」
 まぁ、理由は簡単だ。身体部位を強制的に強化するとその部位の負担も大きくすぐに悲鳴を上げる。だから魔力を身体全体に流して無理に動かしてる。
 つまり、魔力の切れた俺の身体は90歳のお爺ちゃん以下なんだ。
 顔を上げると満足そうな笑みをしたエヴァンジェリンが浮いていた。
「フッ・・・・」
「ん? どうした?」
「俺は6歳の頃から身体を鍛えて、魔法もそれなりに使えるようになった。修行始めて今年で丁度10年だ」
「この戦闘でお前の10年を無駄にして絶望でもしたか?」
 絶望でもしたか?
 まぁ、そう聞かれれば多少なりとも絶望したかな? でもよ・・・・。
 マコトは橋の上で仰向けに寝転がる。見上げる夜空には無数の星が瞬き、三日月が夜を演出していた。
「ただ、世界は広いなって思っただけですよ・・・・」
 そう言うとマコトはゆっくりと目を閉じる。
 遠くから快活な少女の声が聞こえたような気がしたが、今は眠らせてくれ。

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喪々太郎

Author:喪々太郎
厨二作品なんて見る価値ないだって?
意地を張るなよ、本当は厨二が好きなんだろ?
偶には肩の力抜いて厨二を見ていけよ。

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